ブースの見た目やパネルの文言は何度も検討したのに、当日になって「音」のことを誰も考えていなかった——。初めての出展では、実はよくある話です。用意した紹介映像の声がまわりの騒音にかき消される、逆に音量を上げたら隣のブースから苦情が来る、マイクを使いたかったのに会場ルールで禁止されていた。どれも、会期中には直しにくいトラブルです。
この記事では、展示会場の音環境がどれくらいのものか、主催者の音量ルールをどこで確認するか、そして限られた予算のなかで音をどう使えば来場者に届くのかを、実務の順番に沿って整理します。読み終えるころには、自社のブースに音が必要かどうかを判断できるようになるはずです。
展示会場は、思っているよりうるさい
大規模な展示会の会場内は、来場者の話し声、空調、搬送機器、各ブースの音が重なり、おおむね日常会話がしづらい程度の騒がしさになります。目安として、駅のホームやにぎやかなレストランに近い環境を想像してください。
この環境で起きることは2つです。ひとつは、小さな音はまったく聞こえないこと。ノートPCの内蔵スピーカーで映像を流しても、1m離れると何を言っているか分かりません。もうひとつは、音量を上げても聞き取りやすくはならないこと。周囲の音も同時に大きいため、単に音量を上げると自社の音が濁って、余計に伝わらなくなります。
つまり、音を使うかどうかの判断は「大きくするか/しないか」ではなく、「どこまで届けばよいか」を決める話になります。ブース前1mの人に届けばよいのか、通路の向こう側まで届かせたいのか。後者を狙うと、ほぼ確実に周囲とのトラブルになります。
最初にやること:出展者マニュアルの「音響」の項を読む
音の使い方は、展示会ごとにルールが決まっています。会期の2〜3か月前に配られる出展者マニュアル(出展規程)に、必ず音響に関する項目があります。よく書かれているのは次のような内容です。
| 確認する項目 | よくある規定の例 | 見落としたときに起きること |
|---|---|---|
| 音量の上限 | 小間境界線上で一定の騒音レベルを超えないこと | 会期中に主催者から音量を下げるよう指導が入る |
| スピーカーの向き | 通路や隣接小間に向けず、自小間の内側に向ける | 設置し直しが必要になり、当日の作業が増える |
| マイクの使用 | 禁止、または特定エリア・時間帯のみ許可 | 用意したデモンストレーションの進行を変更することに |
| 実演・アトラクション | 事前申請が必要な場合あり | 申請漏れで実施できない |
| 音出しの時間帯 | 開場前・閉場後は不可、昼休みは音量を下げる等 | 近隣ブースとの関係が悪くなる |
特に注意したいのが、音量は「自分のブースの中央」ではなく「小間の境界線上」で測られるという考え方です。スピーカーを通路側の端に置くと、境界線での音量が一気に上がります。同じ音量でも、スピーカーを小間の奥に置いて内側へ向けるだけで、境界線上の数値は下がります。提出書類や申請まわり全般は出し忘れると当日が止まる。展示会の提出書類と申請手続きの基本もあわせてご確認ください。
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1小間のブース、いくらでつくれる?
いずれも1小間(3m×3m)・税別。照明込みで、ターポリンやパネルなどの装飾は別料金です。
音を使う目的を、1つに絞る
ブースで音を使う目的は、大きく3つに分かれます。それぞれ必要な機材も音量も違うため、欲張らずにどれか1つに決めるのが失敗しないコツです。
| 目的 | 届かせたい範囲 | 向いている方法 | 音量の考え方 |
|---|---|---|---|
| 足を止めてもらう | 通路(ブース前2〜3m) | 短い効果音、実演の実況、控えめなBGM | 周囲より少しだけ目立つ程度。大音量は逆効果 |
| 内容を理解してもらう | モニター前(0.5〜1m) | ナレーション付き映像、指向性スピーカー | 近づいた人にだけ聞こえればよい |
| 雰囲気をつくる | 小間全体 | BGMのみ(歌詞なし) | 会話の邪魔にならない最小音量 |
初出展で迷ったら、2つ目の「内容を理解してもらう」から始めることをおすすめします。通路の人を音で振り向かせるのは難易度が高く、予算もかかります。一方、モニターの前まで来てくれた人に確実に内容を届けるほうが、商談につながりやすいためです。映像やモニターを置く位置については全部並べても、伝わらない。展示会に持っていく展示物と実演の決め方で扱っています。
機材と置き方の実務
必要な機材は目的によって変わりますが、1小間(間口約2.97m)のブースであれば、次のような構成が現実的です。
モニターの音声を聞かせたい場合:モニター内蔵スピーカーでは足りないことが多いため、小型のアンプ内蔵スピーカーを1〜2台、モニターの左右か下に設置します。来場者の耳の高さ(床からH1200〜1500mm程度)に近づけると、同じ音量でもはっきり聞こえます。
BGMを流したい場合:スピーカーは小間の奥の上部(H2000〜2400mm程度)に、通路と反対向きに設置します。音が壁で反射して小間内に広がり、境界線上の音量は上がりにくくなります。
あわせて用意しておくと当日助かるのが、延長コードと電源タップです。音響機材はモニターやPCと同じ電源から取ることが多く、コンセントの数が足りなくなりがち。電気容量の申し込みについては電源は何ワット必要? 展示会の電気・ネット・給排水「付帯設備」申込ガイドを参考に、余裕をもって申請してください。会期前日の設営時に、実際の会場で一度音を出して確認する時間を30分ほど見ておくと安心です(前日18時に会場は閉まる。展示会の搬入・搬出の段取りと持ち物リスト)。
音を使わないという選択も、十分に強い
ここまで書いておいて何ですが、初出展のブースで音が必須かというと、そんなことはありません。音を使わずに映像を見せる方法として、字幕(テロップ)を大きく入れるという手があります。1文あたり15〜20文字程度、画面の高さの1/10以上の文字サイズで焼き込んでおけば、音がなくても内容は伝わります。むしろ騒がしい会場では、字幕のほうが確実です。
スタッフが説明する前提であれば、映像は音なしのループ再生にして、話すのは人に任せる。この割り切りのほうが、1小間のブースでは成果が出やすい場合も多くあります。人の立ち位置や声かけについてはブースに立つ人で成果が変わる。展示会スタッフの服装・立ち位置・声かけをご覧ください。実際のブースの雰囲気は施工事例からご確認いただけます。
よくある質問
Q. 市販の音楽をBGMとして流してもよいですか?
A. 市販の楽曲やCD音源をブースで流す場合、著作権の手続きが必要になることがあります。展示会によっては主催者が包括的に許諾を取っている場合もありますが、そうでないケースも多いため、出展者マニュアルの記載を確認し、不明なら主催者事務局に問い合わせてください。手続きの手間を避けたい場合は、商用利用が許諾されたBGM素材(利用規約で展示会での使用が認められているもの)を使うのが確実です。
Q. 隣のブースの音がうるさくて、自社の説明が聞こえません
A. 直接ご自身で交渉するより、主催者の事務局に相談するのが基本です。会場内には音量を管理する担当者がいることが多く、規定を超えていれば主催者から調整の連絡が入ります。あわせて自社側でできる対策としては、商談の席を小間の奥に移す、バックパネル側に人を向けて話す、といった工夫が効きます。立ち話で終わらせない。1小間からつくる展示会の商談スペースも参考になります。
Q. マイクを使いたいのですが、禁止されている展示会もあるのでしょうか
A. あります。会場や展示会の性格によって、マイク・アンプの使用を全面的に禁止していたり、指定のデモンストレーションエリアに限っていたりします。マイクを前提とした実演を企画している場合は、出展申込みの段階で主催者に確認しておくと、企画のやり直しを避けられます。
まとめ
展示会の音は、うまく使えば強力ですが、手順を間違えると当日に直せないトラブルになります。押さえるべきは4点。(1)出展者マニュアルの音響規定を必ず読む、(2)音量は小間の境界線で見られると理解する、(3)目的を1つに絞り、届かせたい範囲を決める、(4)スピーカーは通路と反対向き、耳の高さに置く。
そして、音を使わずに字幕とスタッフの説明で成立させるのも立派な設計です。会場の騒がしさを前提に、自社のブースで何を確実に届けたいのかを先に決めてください。ブース全体の計画を組み立てる際は、出展が決まったら、まず何をする? 会期6か月前からの逆算スケジュールとあわせてご活用ください。
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